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「兄貴、日曜日って暇?」

 

パキラ、ガジュマル、リトルベイビー。白と藍が基調のデザイナーズマンションの一室には、窓際だけではなく多くの観葉植物が陽を浴びている。日差しがたくさん入る大きなガラスルームは、兄がマンションを買う決め手だった。

 

昼下がりの一室で、鼻歌まじりに観葉植物に水をやっている兄に声を掛ける。 ん?と気の抜けた声を出して振り向いた兄の銀糸は、外から差し込む陽の光を受け、宝石ようにきらきらと煌めいていた。

 

「なんだよ、お兄様と出掛けたいってか?」

「ああ」

 

ダイニングテーブルを拭いていた布巾を置き、ニヤニヤとしている兄に返答する。兄は猫のような目を丸くして、素直に答えた俺の顔を見直した。

 

「いやに素直だな。…なんか変なモンでも食ったか?」

「さっきのパスタぐらいだな」

「あん?!俺の傑作じゃねえか!んなわけないだろ!」

 

ギャンギャンと騒がしくしている兄の手からは、ブリキ製の水差しが悲鳴をあげながら水を揺らしている。ふう、と一息つきながら兄を通り過ぎ、窓際に置かれたオリーブの樹をと覗き込みつつ、兄が寄りかかっている間仕切りに反対向きで腰掛けた。

 

「俺はいつでも素直だろ」

 

横に座る兄の目を見て、ゆっくり話す。不思議そうに俺の目を見つめてくる兄の瞳は、柘榴石のように深く赤く、美しい。 ぎし、と間仕切りが音を立てて、俺の左手が兄の耳元へと近づく。

 

「…っ!」

 

耳にはシンプルなイヤーカフが2つ。俺が去年の誕生日にあげてから、毎日付けているものだ。指先で遊んでやると、頼りなげにからりと音を鳴らし、兄の肩が跳ねた。

いじらしくて、可愛らしい兄。

 

「たまには俺にも水をやってくれよ」

 

左手を下ろし、兄の手にある水差しを撫で、頭を兄の肩に預ける。

肩から感じる温もりが心地よかった。

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