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◇指輪

 



指輪を買った。内側に小さな赤い石の付いた、シンプルなプラチナの指輪だ。

普段の俺らば選ばない、地味な指輪だった。とても頑丈で、輝きが永遠に続くとうたうその指輪。
内側の石が煉獄の瞳の色に似ていて、綺麗だと思った。奴の指に収まる指輪を想像していたら、気がつけば手にそのブランドの紙袋を下げていた。

「やる」

休日、ディナーで盛大に舌鼓をした奴と、東京湾を臨む遊歩道を歩きながら渡した。はじめは瞠目していた煉獄だが、大きな目をぱちぱちと弾ませたあと、渡された紙袋を恐る恐る開けた。

「…こんな、こんな良いもの、受け取っていいのか」

煉獄の大きな手に、小さなビロードの箱が包まれている。中を開け、目を見開いた煉獄の瞳は、箱の中で輝く指輪よりも美しい。

「良いに決まってんだろ。お前に似合うと思って買ったんだから」
「…良いのか。本当に、俺で…?」

ぱちぱちと、奴の瞳の奥で篝火が弾ける。その火花が幾つもの星を作り、頬を赤い星雲が彩るのが、俺はずっと美しいと思っていた。そう、前世から。
時代や立場が実を結ばなかった、彼の、俺の、この想い。

でも、今世では。

「…これからもずっと、一等大事なお前だから、貰って欲しいんだ」

腕の中に、煉獄を抱き入れる。すっぽりと腕の中に収まるその身体は、冬の透き通った冷たさの中で、ひときわ熱量を持っている。星よりも宝石よりも、俺の視界で輝き、1番輝きを見せるその瞳が、上を向いてその先の俺を見詰める。

口付けを落とすと、瞳から流星が零れ落ちた。

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